杉山静枝記念賞を閉じるにあたり
1964年、杉山静枝先生が古希の賀寿をお迎えになられたのを好機に、有志諸賢たち相諮り、杉山賞が設定されました。 1994年、第31回より杉山静枝記念賞と改称し、 今平成22年1月、第46回の授賞式を催行いたします。 その間、優れた技術と高い品性を兼ね備えた在野の技術者を顕彰しつづけ、その数90氏を数えることになります。わが国紳士服の技術レベルを世界第一級と称されるまでに 高らしめたのは、言うまでもなく杉山静枝先生の開発された高度な技術と、生涯を懸けられた後進への技術指導の賜物ではありますが、併せて歴代受貧者の方々のご指導によるものでもあろうかと、密かに自負するものであります。 今日、わが業界を取り巻く諸般の情勢は極めて厳しく、その変遷のさまに戦慄をすら覚えるのであります。そして、あらゆる価値観の移ろいゆくなかにあって、40余年を閲してまいりました杉山静枝記念賞もまた、その果たしてきた 役割を区切るべきときを迎えたものと思われます。「新しい時代には新しい革袋と新しい酒」が求められます。けれども、いかに新しいテクノロジーに支えられた服づくりが生まれて来ようとも、紳士服が世の男性に装われるもので ある限りは、百年以前に杉山静枝先生によって確立された技術がその礎であります。いかに新世代の製作者といえども、それを構築するにあたっては歴代受賞者の方々の、磨き抜かれた高度な技術力が必要不可欠なのであります。なにとぞ今後とも格段のご精進をいただき、なお杉山静技先生のお志を体されて、後継技術者の指導育成にあたられますことを祈念申し上げます。(杉山静枝記念賞管理委員会代表 川淵勉)
第46回受賞者決定
第46回(平成21年度)杉山静枝記念賞の選考委員会(川淵勉選考委員長)が11月26日、大阪北区のOMMビル東天紅で行われ、伊丹一之(東京)、足立直樹(神戸)、島田哲司(大阪) の受賞が決まった。選考委員は真鍋恵勇(東京)、小川光夫(名古屋)、青木勝(大阪)、坂本祐敏(神戸、書類審査のみ)、川淵勉、以上5名が慎重審議した。 なお、杉山静枝記念賞は第46回をもって廃止されることが決まった。同賞は大阪を代表する技術者 の第一人者であった杉山静枝氏の功績を後世に伝え、後進の育成、業界の発展に寄与することを目的に設立されたもので、業界におけるノーベル賞と称えられ、多くの優秀な技術を輩出、今日に至る。技術研磨に努める業界人の金字塔でもあった。(文中敬称略)
【伊丹一之】昭和22年生まれ、61歳、東京。東京工芸大学工学部卒業後、長瀬産業コダック製品部を経て、昭和49年伊丹洋服店入店。現在同店を経営するとともに、いたみ裁断教室を主宰、後進に製図法、パターン作りを指導している。
昭和54年労働省職業訓練局・雇用促進事業団職業訓練部共編「洋服製図」執筆、平成3年第6回国民文化祭(文化庁主催)パーテイーウエアフアッションショー男性部門1位、4年東京都洋服商工協同組合編「注文紳士服技術全書<設計>」編集・構成など、技術伝承、後進の育成に尽力。その功績を表された。全日本紳士服デザイナー協会会員。
【足立直樹】昭和28年生まれ、61歳、兵庫県出身。昭和39年藤田洋服店、45年飯島洋服店、49年ホース&カーチス(英・ロンドン)を経て、昭和51年テーラーリングあだちを開業、現在に至る。
成21年全日本技能グランプリ2位入賞。「ひょうごの匠」に認定され、県内中学校に出向き、洋服技能の啓発に努めるとともに、神戸ものづくり職人大学で講師として、若手技術者の育成に尽力している。神戸テーラーズアソシエーション会員、兵庫県洋服商工業協同組合員。
【嶋田哲司】昭和24年生まれ、60歳、大阪出身。昭和39年嶋田縫工所入社、54年独立、現在に至る。合理的、無駄のない仕事、早く縫製する技能に卓越しており、新しいデザインにも意欲的に取り組むなど、縫製技術者として高く評価されている。平成20年大阪府技能競技大会知事賞受賞。大阪府洋服商工業協同組合の講習会、杉山会等で技術指導を務めるなど、後進の指導にも熱心に取り組んでいる。大阪洋服技能士協会、大阪府洋服技能士会会員。
杉山静枝記念賞について
私どもが等しく師表として仰いでまいりました杉山静技先生は、一八九三年にお生まれになりました。二十世紀初頭、折りしもわが国紳士服業界の揺藍期にあって、大切な家業をも顧みられることもなく、自ら研究を重ね奥義を究められた紳士服製作技術を、業界の後進たちに伝授されることを志されました。そして一九八二年にそのご生涯を閉じられるまで、文字どおり終生の仕事として貫かれたのであります。一九六三年、先生の古稀のお祝いを機会に、全国の有志、先賢諸氏、および門下生たちの発議により杉山賞が設定され、六四年度を第一回として本賞の歴史が始まりました。ひたすら後進の技術指導と人格の育成に情熱を傾けられた先生の高邁な精神を旨とし、先生が究極の目的とされた、紳士服製作技術の向上のための一助に資したいと願って設けられた賞であります。
昭和三十八年十一月一七日と日付のある「杉山賞設定趣意書」には、発起人として二十名の諸先生のお名前が掲出されておりますが、こんにちなおご在世の方はお一人もありません。四十年という年月の来し方を思うとともに、賞の設定に力を尽くされた先人諸氏の慧眼とご努力に改めて敬意を表するものであります。
一九九四年、本賞の第三十一回を迎えるを機に、すでに亡き先生のご功績を後世に語り継ぎ、後輩たちに伝え続けるべく、先生のフルネームを冠して杉山静枝記念賞と改称いたしました。そして、いまここに発足以来第四十三回を迎えます。その間、大方のご支援を仰ぎながら、広く全国より優れた技術と高い品性を兼ね備えた在野の技術者を選出し、なおI層の研鑽努力を期待して顕彰し続け、その数すでに八十三氏を数えます。
顧みますとき、こんにちわが国の紳士服技術水準が世界第一級と称されるまでに、その名声を高からしめたのは、先生のご功績技きに語りきれないことはもちろんでありますが、併せて、先生の謦咳に接し薫陶をうけた、全国に在る技術者たちのご活躍、さらには、歴代の杉山賞・杉山静枝記念賞の受賞者の方がたのたゆまぬご努力の賜にほかなりません。
本賞ご受賞の諸氏におかれましては、その生涯を後進の指導に懸けられた杉山静枝先生の精神を体され、業界の発展と技術の向上に意を用いられますことを希うものであります。
平成十九年一月十日
杉山静枝記念賞管理委員会代表 川淵 勉
杉山静枝記念賞 歴代受賞者氏名一覧
(受賞年代順・2010年現在・敬称略)
松田 法明 | 池内 幸男 | 岡本 富一 | 酒井 繁雄 | 大路 信一 | 鈴木 誠二 |
近藤 正己 | 真鍋 恵勇 | 松田 義明 | 平岩 武雄 | 横川美佐夫 | 森 有三 |
梶岡 三省 | 南部 克夫 | 近藤 英雄 | 田中 謙司 | 木村 仁 | 寛山 武司 |
河野 吉男 | 佐藤 清彦 | 関根 常雄 | 柴崎 隆大 | 安藤 明治 | 池本 陞 |
森脇 敏博 | 中村 俊雄 | 金森 清伸 | 佐伯 博史 | 尾崎 敏雄 | 大川トシオ |
渡辺 昇 | 大下日泥雄 | 飯島 祺雄 | 関根 璋治 | 稲澤 治徳 | 酒井 利之 |
熊谷 義郎 | 川口 裕三 | 小段 健二 | 梶原 稔 | 本山 久義 | 平井 忠士 |
坂本 藤吉 | 山田 鉄雄 | 村山勝太郎 | 石田正太郎 | 條 良光 | 坂本 眞一 |
神田 四郎 | 新村 作治 | 横山 忠世 | 夏目 晴久 | 松田 茂仲 | 安武 紳一郎 |
依田 弘 | 小川 光夫 | 坪井 徳治 | 浅山 章一 | 上村 欽視 | 真鍋 康昭 |
津坂友二郎 | 佐藤 五郎 | 川淵 勉 | 片山 清温 | 浅井 金明 | 吉田 育 |
坂本 祐敏 | 青木 勝 | 松尾 芳樹 | 島田 正 | 杉山 一郎 | 平岩 一郎 |
西島 正明 | 木原新三郎 | 松本 義夫 | 長尾 安夫 | 森下 善吉 | 伊丹 一之 |
山本 運七 | 佐藤 繁 | 吉田 実 | 青木 一巳 | 中田 雅頼 | 足立 直樹 |
深見 証三 | 東 昭良 | 高市 俊弘 | 松岡 義和 | 中本 敬三 | 嶋田 哲司 |